東京国立近代美術館70周年記念展
重要文化財の秘密 「問題作」が「傑作」になるまで
東京国立近代美術館は1952年12月に開館し、2022年度は開館70周年にあたります。これを記念して、明治以降の絵画・彫刻・工芸のうち、重要文化財に指定された作品のみによる豪華な展覧会を開催します。とはいえ、ただの名品展ではありません。今でこそ「傑作」の呼び声高い作品も、発表された当初は、それまでにない新しい表現を打ち立てた「問題作」でもありました。そうした作品が、どのような評価の変遷を経て、重要文化財に指定されるに至ったのかという美術史の秘密にも迫ります。
史上初、展示作品すべてが重要文化財
明治以降の絵画・彫刻・工芸の重要文化財のみで構成される展覧会は今回が初となります。明治以降の絵画・彫刻・工芸については、2022年11月現在で68件が重要文化財に指定されていますが、まだ国宝はありません。本展ではそのうち51点を展示します。
「問題作」が「傑作」になるまで 指定の歩みから浮かび上がる近代日本美術史
明治以降の作品が最初に重要文化財に指定されたのは1955年。以降、いつ、何が指定されたかをたどっていくと、評価のポイントが少しずつ変わってきているように見えます。それはすなわち、近代日本美術史の研究の深まりの反映でもあるでしょう。
重要文化財は、1950年に公布された文化財保護法に基づき、日本に所在する建造物、美術工芸品、考古資料などの有形文化財のうち、製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの等について文部科学大臣が定めたものです。そのうち特に優れたものが「国宝」に指定されます。
作品リスト
https://www.momat.go.jp/wp-content/uploads/2023/05/list-jubun2023_0502.pdf
1日本画
白雲紅樹図(橋本雅邦、1890年)
生々流転(横山大観、1923年)
山奥の一滴の水が、集まり渓流となって、大河となり海へ注ぎ、嵐とともに龍となって天へ還るという水の輪廻を表している。
全長40mの水墨絵巻で、2023年は作品が描かれてから100年。
作品の制作から重要文化財に指定されるまでの期間が最短の44年。(1923年制作、1967年重要文化財指定)
弱法師(下村観山、1915年)
行く春(川合玉堂、1916年)
舞台は長瀞、川沿いの岩壁に舞う桜が綺麗。
室君(松岡映丘、1916年)
洞窟の頼朝(前田青邨、1929年)
解説には「緊張感をもって描かれている」とあったが、表情がコミカルで漫画の一コマのように感じた。
髪(小林古径、1931年)
母子(上村松園、1934年)
上村松園は作品が重要文化財に指定されている近代の芸術家で唯一の女性。
「単に綺麗な女の人を写実的に描くのではなく、女性の美に対する理想や憧れを描き出したい。」
黄瀬川陣(安田靫彦、1940,1941年)
重要文化財に指定された美術品の中で最も制昨年が新しいもの。
この作品が1940~1941年にかけてなので、戦後の美術品はまだ一つも重要文化財に指定されていない。
2洋画
騎龍観音(原田直次郎、1890年)
西洋の伝統的な宗教画の描き方で、仏教的主題を描いたもの。
陰影や遠近法が取り入れられたリアルな描写が取り入れられている。
龍は実物を写生することができないので犬や鶏を参考にしたためか、龍の顔が可愛かった。
鮭(高橋由一、1877年)
裸婦(山本芳翠、1880年)
収穫(浅井忠、1890年)
鮭、海の幸とともに1967年に油絵として最初の重要文化財。
湖畔(黒田清輝、1897年)
黒田清輝は日本近代洋画の父と言われる。
明治100年を記念して、1967-68年に明治時代の作品がまとめて重要文化財に指定されたときに最終候補まで残っていたが、選からもれたらしい。
その理由は「西洋で学んできた表現が、帰国後、先鋭さを失い甘くなったと解釈されたよう」。
4月初旬に東京国立博物館の黒田記念館で見たばかりだが、いつの間にかここに来ていた。
わだつみのいろこの宮(青木繁、1907年)
古事記の海幸彦・山幸彦の神話に基づく作品。
南風(和田三造、1907年)
裸体美人(萬鐵五郎、1912年)
「ゴッホやマティスの影響を受けて、主観的表現を試みた日本で最初の作品」
東京美術学校の卒業制作で19人中16番目という低評価だったが、2000年に重要文化財に指定された。
モデルと作者のヒエラルキーを逆転させ、モデルの方が上から目線な点が、ジェンダー論的にも興味深いよう。
信仰の悲しみ(関根正二、1918年)
「異常で幻想的な構成を採りながら、画面には真摯で澄明な美しさが漂っている。」
関根正二の油彩はほとんど独学らしい。
Nの家族(小出楢重、1919年)
3彫刻
猿の左手には鳥の羽根が握られていて、鷲を捕えようとして取り逃がし、飛び去る姿を睨みつける様子を表したと言われる。
この像は、シカゴ万博に出品されたもので、日本館の隣にロシア館があったことから、鷲はロシアを暗示していると、高村光雲の息子の高村光太郎が回想したらしい。
高村光雲は上野の西郷隆盛や皇居前の楠木正成の像にも関わりがある。
近代の美術品で重要文化財に指定されているのは68件、そのうち彫刻は6件で、木彫りのものはこれだけ。
十二の鷹(鈴木長吉、1893年)
様々なポーズで金属なのにリアル。
鷲置物(鈴木長吉、1892年)
北條虎吉像(荻原守衛、1909年)
墓守(朝倉文夫、1910年)
ゆあみ(新海竹太郎、1907年)
4工芸
黄釉銹絵梅樹文大瓶(宮川香山、1892年)
白磁蝶牡丹浮文大瓶(三代清風与平、1892年)
葆光彩磁珍果文花瓶(板谷波山、1917年)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/158538
湖畔、麗子微笑、老猿、褐釉蟹貼付台付鉢など東京国立博物館で見たことがあるものも多かった。
値段が変わらなかったためプレスリリース付のチケットを購入したので、グッズ売り場で非売品のプレスリリースを貰う。
所蔵作品展 MOMATコレクションへ。
4階まで上り、眺めのよい部屋から景色を見る。
1室、ハイライト
道(東山魁夷)、大きな花束(ポール・セザンヌ)、馬(坂本繁二郎)
太陽、夜、女(33)、無題(16)(草間彌生)
2室、重文作家の秘密
木の間の秋(下村観山)、蕪図(岸田劉生)、太陽の麦畑(萬鉄五郎)
3室、からだをひねれば
女(荻原守衛)
4室、熱国之巻の半年前
5室、新収蔵&特別公開パウル・クレー「黄色の中の思考」
破壊と希望(パウル・クレー)、リズム 螺旋(ロベール・ドローネー)、全体(ワシリー・カンディンスキー)、黄色の中の思考(パウル・クレー)
6室、戦争をいかに描くか
7室、プレイバック「抽象と幻想」展(1953‐1954)
モビール・オブジェ(北代省三)、異影(川口軌外)、ヴィトリーヌNo.47(山口勝弘)
ヴィトリーヌはショーケースを意味するフランス語
建物を思う部屋には、ウォール・ドローイング#769(ソル・ルウィット)。
数字と対応した図形が記号のように壁に描かれていて、暗号のようだった。
8室、マスターズ
夜明け(岡本太郎)、天上よりの啓示(草間彌生)、日本語の文字(高松次郎)
9室、奈良原一高「ヨーロッパ・静止した時間」
10室、春の屏風まつり
非水百花譜(杉浦非水)、小雨ふる吉野(菊池芳文)、春秋波濤(加山又造)